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「あっ!ゴメン。ここを悪く言うつもりじゃないんだけど…」
「いいって、いいって。私もあの人、好きじゃないし。でも、ゆきえちゃん、お母さんが心配なの?」
「まさかあ!うちのお母さん、あんな人、相手にしないよ!」
「そうだよね。ゆきえちゃんのご両親はラブラブだもんね」
「そうそう」
冗談めかして言ってみたけれど、でもなんとなく二人が気になる。立ち話をしていた母と富田さんは、そのうち座敷の隅に座りこみ、何やら懐かしそうに話しこんでいます。
今回の帰省には父は来ていません。それをいいことに、母が昔の男友達と…
まさかね。
母はお友達のお母さんたちと比較してもキレイな方だとは思うけれど、父以外の男性とどうにかなるなんて考えられない。
それでも私の胸騒ぎは静まりませんでした。

そういえば、両親の性交の声を初めて聞いたのは、この家でのことでした。
5年生の夏、ユリちゃんと二人で廊下から盗み聞きしたのです。
帰宅してからも注意深く観察していると、稀に両親の寝室から、母の押し殺したうめき声やベッドのきしむ音が聞こえてくることがありました。
もちろん私にとっては母だけど、父にとっては愛する女でもあるのです。
そこら辺の男女の機微は、ケンちゃんと愛し合うようになった今の私にもわかる気がする。
そうなんだ。母は女でもあるのだ。
そんなことを考えていると、ますます親しげに話す二人が気になって仕方がないのでした。

翌日はいよいよ夏祭りで、にぎやかな祭囃子が聞こえたり、浴衣姿の人がそぞろ歩いたりと、何やら街全体が浮わついた空気です。
うちの実家はお神輿の休憩所にもなっていて、私たちは飲み物や軽食を用意して、お神輿を待ちました。
褌に法被姿の若い衆がまぶしい。
私とユリちゃんは、子供みこしを担ぐ子どもたちに、ジュースやお菓子を配る係。
「ねえ、窪田先輩はお神輿担いだりしないの?」
「するわけないジャン。クールだもん」
「でも、ふんどし姿、似合うかもよ。脚長いし」
「イヤだあ、ゆきえちゃん!想像しちゃうじゃないの!」

夜は、おばあちゃんに買ってもらった浴衣を着て、ユリちゃんと縁日に出掛けました。
東京での縁日といえば、学校の校庭とかで自治会やPTAがポップコーンを作って売ったりぐらいのイメージですが、田舎の縁日は神社の境内いっぱいに鮮やかな屋台が出回って、ちょっと怖いおじさんや、威勢のいいお姉さんが賑やかにモノを売っていたりして、すごい活気です。
私たちはその雰囲気に巻き込まれて、ヨーヨー釣りをしたり、綿菓子を買ったりして楽しみました。
綿菓子1個500円は高かったけれど、親戚連中にお小遣いをもらっていたので軍資金はたっぷりです。
でも、私とユリちゃんは喧騒に疲れて、いつしか薄暗い通りを並んでおしゃべりしながら歩いていました。
遠くでさざ波のように盆踊りの歌が聞こえてくる。
「あれ?祐子叔母さんじゃない?」
ユリちゃんが指差した方向を見ると、50mぐらい離れた路上を、たしかに母が男性と肩を並べて歩いていました。
(つづく)

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2010.10.30 Sat l ゆきえの冒険・中学生編 l コメント (2) トラックバック (0) l top