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信州滞在2日目の午後、奈緒、ゆきえ、ユリエの3人娘は、バスに乗って安曇野の有名な観光用のわさび園へと出掛けた。
「なんでうら若き娘が3人も揃って、こんなところで時間を潰さなきゃいけないの?観光客ってジジババばっかりじゃない!」
相変わらず奈緒は口が悪く、
「うるさいわねえ!嫌なら来なければいいでしょ!」
とか、ユリエに言い返されていたが、夏の陽射しの下、一面のわさび田を見て、歓声を上げた。それはゆきえも同じで、見渡す限りのワサビの葉の緑と、縫うように走る清水の風景には、何度見ても目を奪われ、心が洗われる気がする。
さっきまで文句を言っていた奈緒は、ジジババに混じって水車小屋やわさび田の写真撮影にいそしみ、土産物を買い漁り、売店の『わさびソフトクリーム』に舌鼓を打ち、ゆきえ、ユリエを無理やり誘っては、記念写真を撮りたがった。
「なんだか子どもみたい」
老人グループにシャッターを頼まれ、張り切ってポーズの指示まで出している奈緒を見ながら呆れるユリエに、ゆきえは、
「奈緒ちゃんも悪い子じゃないんだけどね…」
と、ため息をつくのだった。

わさび園を出て、バス停に向かう途中、3人娘の前に、一人の若い男が現れたのだが、最初に気付いたユリエがサッと顔を背けた。
「あっ…窪田先輩」
ゆきえが小さく呟いたのを、地獄耳の奈緒が聞き逃すはずがない。
「ん?窪田先輩って、ユリエの元彼のイケメン?」
「奈緒ちゃん…引っ掻き回しちゃダメだよ」
ゆきえが奈緒に耳打ちしたが、そのうち窪田先輩の方も、ユリエたちに気付いたようだ。
「こんにちは」
ゆきえが最初に挨拶し、奈緒は好奇心を隠さないクリクリした瞳で窪田を見つめていたが、ユリエは相変わらずそっぽを向いたまま。
「あっ!えーと、ユリエの従姉妹の…ゆきえちゃんだっけ?」
「はい!お久しぶりです!」
名前を覚えてくれていたことが嬉しくって、思わず声が弾んだゆきえだったが、すかさず奈緒が、
「奈緒で~す。ユリエちゃんの従姉妹のゆきえちゃんの親友で~す」
と、ぶりっこブリブリに自己紹介。
「あ、そう…よろしく」
「東京の大学に行ってたんですって?私、六本木界隈は庭ですから、今度一緒に…」
「奈緒ちゃん!」
何を話し出すかわからない奈緒を制して、
「ユリエちゃん…お話しなよ」
と、ユリエの背中を押したねだが、相変わらずユリエは拗ねたように顔を背けたままだった。
「あっ、じゃあ僕は…」
気まずい沈黙に耐えられないように、窪田がゆきえに軽く手を上げると、
「じゃあ、またお会いしましょうね」
と、奈緒が、長いまつ毛をパチパチさせながら媚を売ったが、窪田は曖昧な笑顔を残して去って行った。

「なるほど。田舎モンの割りには、なかなかクールな若者ね。こんなところでくすぶらせるのはもったいないわ」
奈緒が腕組みをして、一人で納得していたが、ゆきえはユリエと窪田の関係が気になって仕方がなかった。
3年前は、あんなに仲がよかったのに…
「いこ」
窪田が去り、ユリエは何事も無かったようにバス停への道を先に歩いて行ったが、遠ざかる窪田の後ろ姿を何度もチラ見していたことに、ゆきえは気付いていた。
(つづく)

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2011.12.29 Thu l ゆきえの冒険・高校生編 l コメント (2) l top