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「このコースはブラジルレアル建てになっておりますが、成長著しいブラジル経済は金利が高く、高い配当が期待出来ます。ブラジルは人口に占める若年層の比率が高く、将来性が高い上に地下資源が豊富で、しかも世界有数の食糧生産国でもあります」
「へえ、そうなんですか」
僕が合いの手を入れると、証券会社の担当スタッフは、チャーミングで自信満々の笑顔でうなづいた。
彼女が一生懸命に説明してくれる間、僕は、きれいにデコレートされた彼女の爪をチラチラと眺めていた。
「2014年にはブラジルでサッカーのワールドカップが開催され、その2年後にはリオデジャネイロでのオリンピックが控えています。私どもは、少なくともそれまではブラジルの成長が続くと見ているんです。まだ決定はしていませんが、その後に万国博覧会が開催される可能性も高いようですよ」
まるでブラジル大使館員のように、丁寧にブラジルを持ち上げる彼女。僕は、ブラジルにもワールドカップにも、とんと興味は無かっけど、彼女の熱心で真摯なブラジル讃歌に1票を投ずることにし、さほど考えることもなく、退職金とそれまでの貯蓄を合わせた4千万円で、彼女お勧めの債券を買うことにした。
ほぼ全財産。わずか30分の商談での決定に、爪に細かな金の粒を散らした女性スタッフが驚き、支店長まで挨拶に出て来た。
僕は分厚いパンフレットと、粗品のタオルセットを証券会社の立派な紙袋に入れてもらって家に帰った。
その月の終わり、証券会社に作った口座に、当月分の配当として65万円が振り込まれた。
「ホホ~」
呆れるしかなかった。証券会社の女の子は決してウソは言わなかったのだ。
休日返上で働いて得た手取り給料の2倍の金を、働かずに得ることが出来る。ブラジル恐るべし!
僕は、これでしばらくはダラダラと過ごせそうなことを祝福した。そう、僕は基本的に怠惰な人間だったのだ。自分でも気付かないほどに。
たしかに、債券なんていつ紙くずに変わるかもしれない(アメリカが破産したらどうなる?)。でも、僕は元々あまりコストの掛かる生活をしてきたわけではなかったし、金が無くなれば、また働けばいい。
不況で求人難と言われようが、どんな仕事をしても、そこそこの働きは出来る自負はある。
そして、組織が本当に必要とするのは、僕みたいな実戦的な人材だということもなんとなく知っていた。
でもとりあえず、働くのは先の話だ。
40歳、独身、借金無し。なんとでもなる。
そして、優雅で退屈で長い、僕の休暇が始まった。

親からも孤独癖があると言われてきた僕だけど、そんな僕にだって友達はいる。そして、僕には友達と呼べる存在が一人しかいなかった。
その唯一の友達は女性で、定期的にデートをして、セックスまでしていたから、彼女と呼ぶ方が適当かもしれないけど、僕は『友達』と呼ぶほうがぴったりくると思っていた。セックスもするお友達。でも『セックスフレンド』とは、ちょっとニュアンスが違う。
その人の名は金井葉子。
44歳で僕より4つ年上。結婚していて高校生の娘と息子がいる。
開業眼科医の妻にしてフリーランスの店舗コーディネーター。店舗の企画からディスプレイなどを手掛け、場合によっては雑貨の卸販売なども行っているらしい。
もともと裕福な家なのに、二人の子供を育てながら自分の仕事を持ち、主婦業までこなしてきたのだからたいしたものだ。
不倫な関係だから、彼女と言うより愛人と呼ぶべきかもしれないけど、当然ながら僕も彼女も愛人なんて呼び方はあまり好きではなかった。

葉子と僕の関係は15年前からで、その頃葉子は店舗ディスプレイ専門の会社に所属していて、そして僕の勤め先で出会った。
当時、僕は社会に出て3年目。やっと一人前の仕事を任せられた頃だ。
どんな状況から、葉子と男と女の関係になってしまったか、今では思い出せないぐらいだけど、基本的に女性に対しては一貫して受動的な僕が、短期間のうちにホテルのベッドで葉子と抱き合うことになったのだから、なにごとにもアグレッシブな葉子に押しまくられたと考えるのが自然だろう。
当時の葉子は、二度目の出産を終えて間の無い頃だったので、初めてセックスをした時、乳首を吸うと母乳がこぼれ出て来て、僕を驚かせた。
(つづく)

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2011.06.10 Fri l 優雅で退屈な休暇 l コメント (2) l top

コメント

今度の
主人公はいつもと違ってニヒルな感じですね。
それはそうと外国債にはご注意ですね!(笑)。
2011.06.12 Sun l 私の碇で沈みなさいっ!. URL l 編集
私の碇でさんへ^^
ニヒルそうに見えて、実はケンちゃんとかと、そんなに中身は違って無いと思います^^
外国債、高利回りは魅力ですがね^^;
2011.06.14 Tue l スマイルジャック. URL l 編集

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