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朝、一平がスタッフルームに駆け込むと、村田以下が沈鬱な顔で押し黙っていた。
「ひろみさんが逮捕されたって…どうしてですか?」
「おお…一平か」
村田が力ない声で応えた。
「詐欺の容疑だと」
「サギ…?」
「付き合ってた男と一緒にパクられたらしい。その男が宝くじ詐欺を仕掛けてた。加盟金100万、保証金400万で宝くじを販売する権利を取得出来るってな。もちろん大ウソなんだが、その説明会にはいつも飛鳥ひろみがゲストで現れて、その後のパーティーでは客にお酌して回ってたらしい。詐欺の片棒を担いだと見られても仕方ないな。そんな杜撰な詐欺でも被害者は100人以上いるそうだ」
「そんな…ひろみさんは、どうなるんですか?」
「そんなことオレたちにわかるはずないだろう!だいたい、なんでひろみは、そんなすぐにバレそうなことをやったんだ?」
最年長で情報通の前原がそれに答えた。
「貧すれば鈍するさ。ひろみの男はヤグザがらみの借金をだいぶ抱えてたみたいだからな。返せなきゃ警察より怖いヤグザに命を狙われる。もしかしたらひろみは、体まで客に提供させられていたのかもしれない…」
「そんな!そんなことひろみさんが…」
興奮して泣き出してしまいそうな一平を村田が叱咤した。
「泣くな一平!ひろみを庇ってばかりいられないぞ!ひろみのせいで完成直前の映画がお蔵入りになるんだからな!みんな、あんなに頑張ったのに…」
「お蔵入りって…『赤い欲望の女』は上映出来ないんですか?」
「当たり前だろう。主演女優が逮捕されたんだぞ…裁判は時間が掛かるし、完全無罪ってワケにもいかんだろう。フィルムは永遠に倉庫の隅…いや廃棄処分になるかもな」
「そ、そんな…」
一平は体中から力が抜け落ちてへたりこみそうになり、ようやく近くにあったイスに座り込んだ。
「立場がやばいのはプロデューサーの狛江さんだな。上層部の反対を押し切って飛鳥ひろみを主演に据えたのに、会社に大損害を与えてしまった。狛江さん、もうプロデューサーとしてやって行けないかも…」
前原の声も沈んでいた。
「まあ、オレたちはサラリーマンだからな。映画が上映されなくても給料はもらえる。お蔵入りなんて業界ではよくあることだ。気持ちを切り替えて次の映画に取り掛かる。それがプロだ。なあ、一平…」
村田が皆を元気付けるように言った。
「は、はい…でも、ひろみさんはこれからどうなるんでしょうか?」
「今日中に横浜に移されるらしいよ。なんでも詐欺の舞台は横浜なんだって」
教えてくれたのは記録係のユミちゃんだった。
「今ごろ警視庁前にはマスコミが陣取ってるわね。護送車が出てきたら一斉にカメラのシャッターが切られる。テレビニュースでよくやってるヤツよ」
その時、一平が弾かれたように立ち上がった。
「オレ…オレちょっと行ってきます!」
「おい一平!どこ行くんだ?」
脱兎のごとく飛び出した一平をスタッフたちは呆然と見送った。

一平は全速力で駅まで走ると、電車の中でも足踏みを続け、自宅最寄りの駅に着くや再び全速力でアパートに戻り、靴をはいたまま部屋に上がると、押し入れからプラスチック製の衣裳箱を引っ張り出して中身をぶちまけた。
一番底に畳まれていたピンクの布。それを手にすると再び立ち上がり、カギも掛けずに飛び出した。
私鉄と地下鉄を乗り継ぎ、桜田門駅で降りて地上に上がれば、そこにテレビでお馴染みの警視庁本部の、ものものしい建物が一平を睥睨するように見下ろしていた。
一平が再び走りだすと、歩道に立っていた警察官が、『ちょっと待って!』と停止を命じた。
「そんなに急いでどこ行くつもり?」
「あ、はい。ひろみさんは…飛鳥ひろみを乗せた護送車はどこから出ますか?」
「なんだ、マスコミか。そこの辻を曲がったら車の出入口。お仲間がいっぱいいるよ」
「あ、ありがとうございます」
再び走り出した一平が角を曲がると、すでに30人近い人だかりになっていた。
(つづく)

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2011.10.23 Sun l 息子の骨折 l コメント (0) l top

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